同時に軽いめまいを感じた。

(あ…あれ…?) ミカは椅子に尻餅をつき、眉間を手で押さえた。

頭が重かった。

普段ならこのくらいは飲んでも酔うようなことはないのに、今日は感情が昂ぶっていたのだろう。

やっぱりワインは一杯にしておけばよかったと今になって後悔した。

飲みやすい口あたりについ油断してグラスを空けてしまった。

「大丈夫?」

マスターの両手が後ろからミカの両肩を掴んだ。

「ええ…、大丈夫です。

すみません」

肩を支えてもらってミカは立ち上がった。

だがすぐにバランスを失って背後のマスターにもたかかるような格好になった。

(なんだか…体が…熱い…) 頭の中もぼんやりとして意識がはっきりしない。

「あんまり大丈夫でもなさそうだね」

耳元でマスターの声がして、次の瞬間、ミカにとって信じられないことが起こった。

肩を支えてくれていたマスターの手が離れたと同時に、太い腕がミカの細い体を後ろから抱きすくめたのである。

「あ…なにを…」

マスターの腕の力は強く、少し体を揺すったところで逃れようがなかった。

きつく締めつけられた。

背中に頑丈そうな体格のマスターの体重がかかって、倒されそうになる。

(あっ…!) マスターの手がミカの胸に移動した。

ポロシャツの上から、胸の二つの膨らみが手の平に包まれた。

「あ…あの…やめてください…」

誰もいない喫茶店。

ミカの目の前に大きなミラーがあった。

薄く化粧をして髪をポニーテールにまとめ、白いポロシャツにベージュ色のスラックスという軽装のミカ自身が、鏡の中で背後から男に抱かれている。

男と鏡の中で目が合った。

マスターは、とてもさっきと同一人物とは思えないようなギラギラとした目で鏡からミカを見つめていた。

心優しく、お人好しのように見えたマスターの豹変が、ミカにはいっそう不気味に思えた。

だがなぜか、ミラーから目を背けることはできなかった。

恐ろしい光景だった。

後ろから、まるで双乳の量感を確かめているかのように胸を包んでいる手は、夫のものではない。

まだ二回しか会ったこともない、しかも恋愛感情など全くない男性なのだ。

鏡の中にいるのは自分ではないように思えた。

「奥さん…」

マスターは瞳を輝かせて首筋に唇を這わせてくる。

なま暖かいような冷たいような、ザラザラとして濡れた感触…。

耳に熱い息がかかる。

ミカは体を固くしたが、思うように力が入らない。

「きれいだ…」

されるままになっているミカの顎が、マスターの熱い手に包まれた。

その手の力で顔が後ろを向かされた。

「あ、や…」

そこにマスターの顔が近づいていた。

マスターはゆっくりとミカの唇を奪った。

「う…んんっ…」

まるでいけない夢でも見ているようだ。

ゾクッと全身が震える。

夫とは違う匂いに、鳥肌が立つほどの激しい嫌悪を感じた。

けれどその時、ミカの心の中に広がったのは、嫌悪感ばかりではなかった。

夫に冷たくされても自分に優しくしてくれる男の人がいる、という思いが、脳裏をかすめていった。

頭の中がじーんと痺れて、徐々に抵抗しようとする気持ちが失われていく。

「…ん…あ…」

ミカは鼻から甘い吐息を漏らした。

長く、巧みなキスだった。

舌先が唇をくすぐるようにしながら、少しづつミカの口を開かせていく。

歯を固く閉じているつもりなのに、いつの間にか隙間ができてしまう。

「…んっ!」

舌先が入って来た。

ミカの小さな舌に優しく絡んでくる。

(あ…だめ…) ミカは腰くだけに崩れそうになった。
夢中で振り返り、マスターにしがみつく。

そのスマートな肢体をマスターの厚い胸がしっかりと抱きとめる。

ヒップはマスターの大きな手の平に包まれて、撫で回されている。

膝の震えが抑えられない。

マスターが長いディープキスの後、今にも倒れそうなミカを軽々と抱え上げた時、ミカは意識が朦朧としてマスターの腕にしがみついたままでいた。

気の遠くなりそうな濃厚なキスがひとまず終わったという安堵があって、事態がさらに悪い方向に進もうとしていることがよくわからなかった。

マスターは抱き上げたミカをカウンターの裏にある小部屋に連れ入った。

ミカの実家のリビングと同じ、八畳くらいの広さだろうか。

店の方の大きさを考えると、少し意外に思うほどに広い。

スチールの事務机に事務用の椅子、それに木のフロアテーブルと革張りのソファー。

事務室兼応接室のような部屋である。

マスターはミカをソファーの上まで運んで行って座らせた。

そして自分も斜めにミカの方を向いて腰をかけた。

マスターは何も言わない。

まっすぐにミカを見つめている。

耳鳴りがしているのか、周りの音があまり聴こえない。

黙って見つめ合ったまま、数分が経った。

正確には数秒だったのかもしれないけれど、とても長い時間に感じられた。

驚きと、戸惑いとで、声が出ない。

マスターの視線が、ミカの瞳からはずれ、下の方に動いた。

口元から首筋、そして胸まで下りていった時、マスターの片手が伸びて来た。

いきなり、胸に手が置かれた。

ポロシャツの上で、その手がゆっくりと動く。

乳房を揉まれているのだ、ということを自覚したのは、乳首の所に彼の指が触れ、ミカの体がピクッと震えたときだった。

急にミカは恐ろしくなった。

強い拒絶の心が湧いてきた。

マスターは初めは柔らかく、それからだんだん強く、ミカの胸を揉みほぐすように愛撫する。

数年前、女子大の同級生達と温泉に行った時、ミカの胸をまじまじと見た級友に「ミカって着痩せするタイプなんだ」

と言われた。

体は細いのだけれど、Dカップのブラがちょっぴりきつい感じがする。

ミカは目をつぶった。

冷静になろうとした。

逃げなくては、と思う。

まるでこれではマスターにこんなことをされるのを容認しているようではないか。

(私、こんな女じゃない…) 夫婦喧嘩をしたからといって他の男に体を許すような、ふしだらな女ではない。

たしかにこんなことを、一瞬期待しかけたのも事実だけれど、ミカはもう人の妻なのだ。

少し愚痴をこぼしたけれど、健介を愛している。

これ以上は断固として拒まなくてはいけない。

夫を裏切ることは絶対にできない。

(でも…) ミカはすでにこの中年のマスターに唇を奪われてしまった。

それだけでも大変なことなのに、今は服の上からとはいえ胸の膨らみを触らせてしまっている。

もっと激しく抵抗しなくてはいけないのはわかっているのだが、マスターの鳶色の瞳で見つめられた時から、まるで催眠術でもかけられたみたいに全身がだるい。

本来ならマスターのその手を引き剥さなくてはいけないのに、ミカの両手はソファーに張られた革をぎゅっと掴んで動かすことができない。

その手を離した瞬間にソファーに横向きに倒れてしまうような気がした。

それにミカには、どう抵抗すればいいのかわからなかった。

大声で叫んで、やみくもに手足をばたつかせて暴れればいいのだろうか。

もっと乱暴に、例えば力づくで押し倒されたりすれば、暴れたり、叫んだり、そういう抵抗の仕方ができると思う。

でもマスターは一切、そんな強引なことをしていない。

なんだかタイミングが掴めないような、暴れることによって逆に相手を凶暴な野獣に変えてしまうのが怖いような、そんな心境だった。

(あ…) ポロシャツが、少しづつたくし上げられていた。

ミカが目をつぶったのを見て、マスターはもう片方の手を伸ばしてきたようだ。

ポロシャツの下に、手が潜りこんでくる。

「キャッ…」

ブラジャーに包まれた乳房が鷲掴みにされた。

小さな悲鳴にも似た声を出して、ミカは目を開けた。

目の前に、マスターの鳶色の瞳があった。

怖いほどに真剣な表情で、ミカを見つめている。

「震えてるね」

マスターが言った。

きれいなバリトンの、優しい声音だった。

それに信じられないほど、落着き払っている。

「え…?」

たしかにそうだった。

腕も、脚も小刻みに震えていた。

「怖い?」

マスターが顔を寄せてくる。

首筋に、キスをされる。

ミカはうなずいた。

うなずけば、やめてくれると思った。

「旦那さんを裏切るのがいやなんだろう?」

また、ミカはうなずく。

「でもね、奥さんは逃げられないよ。

この部屋は防音になってるから、大声出したって外には聴こえないしね」

とても恐ろしいことを、穏やかな口調で言われると、あまり恐怖が湧かない。

マスターの顔は、微笑んでいるような表情に変わった。

「旦那さんを裏切れない、って気持ちは偉いと思うよ。

だけど彼の方だって、君にこんな淋しい思いをさせて、仕事を優先してる。

それは夫婦にとって裏切りにはならないのかな…?」

「そんなこと…」

反論もできず、ミカは黙った。

その機を逃さず、マスターはミカのポロシャツを脱がせた。

頭が混乱して、されるがままになっている。

上半身が裸にされようとしている危機にさえ、よく気づかなかった。

(裏切られてる…?) あの心優しい健介が、ミカのことを考えていない時間がどのくらいあるんだろう。

残業しているときは、どんなことを思いながら仕事しているのだろう。

なぜだか思考が緩慢で、マスターの言葉を打ち消すような気力が湧いてこない。

まだ酔っているのかもしれない。

(しっかり…しなくちゃ…) そう思った瞬間に、マスターがミカの背中に手を回し、純白のブラジャーのホックを外した。

乳房を覆っていた布があっけなく剥ぎ取られて、ミカは我に帰った。

「やめてください…!」

慌てて、両手で胸を覆い隠す。

「隠しちゃだめだ」

マスターはミカの両手首を掴むと、いともたやすく胸から引き剥した。

「いやっ」

必死で抵抗しようとするミカの両手は難なく背もたれに押さえつけられ、それから徐々に背中の後ろに持っていかれた。

そのミカの両手首を片手で押え、空いた片手で自分のベルトを抜き取っている。

「あっ、なにを…!」

マスターはそのベルトで、ミカの両手首を後ろ手に縛った。

やけに慣れた手さばきだった。

痛くはないけれど、しっかりと手首が固定されてしまっていた。

「ほら、こうすれば罪の意識もないだろう?浮気してるんじゃない。

犯されてるんだよ、奥さんは…」

露骨な言葉に、背筋が凍りついた。

マスターはミカの拒絶感を見抜いていたのだ。

また別の恐怖がミカの心を支配した。

今、ミカの上体は裸にされてマスターの前に晒されているのだ。

マスターは顔を遠ざけ、ミカの胸をじっと見た。

すぐに両手が伸びて来る。

「素敵な胸だ…」

二つの手で乳房を強く揉みながら、首筋に舌を這わせる。

舌は素肌を唾液に濡らしながら、胸に移動していく。

小さな、桜色の乳首を口に含む。

「や、やめて…あ…」

ミカの体がビクッと揺れた。

胸の先端を舌で弄ばれただけで、その刺激がすぐに、大きくなって身体の芯に達した。

(どうして…?お酒のせい…?) ミカの体は震えながら、あまりにも素直にマスターの愛撫に反応していた。

小さな乳首は微かな痛みを感じるほどピンと突き立ってしまっていたし、全身の火照りがミカの下半身を疼かせてしまっている。

マスターは胸から腹部へと、ミカの白い素肌を愛おしむように丹念に舐める。

ミカの上半身が、汗と男の唾液に濡れて光る。

「やめて下さい…お願い…」

ミカの声が力を失っている。

マスターの手がスラックスのボタンにかかる。

両手を縛られたミカにはもうどうすることもできなかった。

ボタンが外され、ジッパーが引き下ろされた。

ストッキングは履いていない。

押し開かれたジッパーの間からは、薄ピンク色のショーツが現れた。

伸縮性がよく、光沢のある化学繊維を使った小さなショーツはミカの女の部分にぴったりとフィットしている。

しかも前を覆うかなりの部分がメッシュになっていて、そこから淡い翳りが透けている。

デザインが大胆すぎて、ミカが滅多に着けないものだった。

「ほう…」

マスターが顔を上げた。

さっきの穏やかな表情とはまるで別人だった。

にやりと笑った目には卑猥な光が宿っている。

「意外と派手な下着だね」

ミカの両手を縛ったことでマスターには余裕ができたようだった。

声が低くなっている。

スラックスと一緒にローヒールの靴が脱がされた。

「見ないで…」

ミカは腰をよじろうとしたが膝を押さえつけられていて叶わなかった。

力が入らない。

逆に両脚が開かれていく。

ミカの恥ずかしい部分が、マスターの鳶色の瞳のすぐ前にあった。

その奥が潤み始めていることに、ミカは気づいていた。

「ククク…」

マスターは下品な笑いを漏らしながら、ミカの脚に唇を寄せていく。

張りのある太腿に舌を這わせる。

ざらざらとした口髭が肌を擦る。

「い…いや…」

舌が脚の付け根の方に這い上がって来る。

「ああ…やめて…」

「クク…いっぱい濡れてパンティが透けちゃってるよ…」

「う…うそです…」

「嘘じゃないって」

マスターがそこに顔を寄せる。

長く、舌を出す。

「あっ、だめっ…!」

ぴったりと張り付くように陰部を覆っているショーツに、舌先が触れた。

そこはマスターが言った 通り、ミカが意識していた以上に濡れていた。

ぬるっ、という感触があった。

「ああっ!」

ショーツの上からなのに、そこをマスターに舐められた瞬間、まるで体じゅうに電流が走ったようにミカのお腹がビクッと大きく波うった。

(ど…どうして…?) 希薄な意識がさらに遠のいていき両脚が自然に開いてしまう。

マスターは猥褻な音を立ててそこを舐めあげながらミカの顔を見上げていた。

濡れたショーツを吸ったりもした。

乳房は手の平でまさぐられている。

「あっ…ああ…!」

ミカは切なそうに顔を歪めて時どき大きく体を震わせたが、マスターの妖艶な眼から視線を離すことができなかった。

「感じやすいんだねえ、奥さんは…。

もうこんなに濡らして…」

マスターはミカの瞳を覗き込みながら意地の悪い笑いを浮かべ、舐めている部分を指でなぞった。

再び乳房にむしゃぶりつく。

ミカのきめ細やかな肌を舐め、尖った乳首を舌で転がす。

「…いや…ああっ…!」

ショーツの中に手が入ってきてミカの蜜の泉に触れた。

「びしょびしょだよ…」

マスターがリズミカルに指を動かすとそこはクチュクチュと淫猥な音を立てる。

「ああ…あん…いや…あっ…ああっ…」

ミカは固く眼を閉じ、体を反らして絶え間なく声を上げ続けた。

マスターはミカの胸といわず首といわず、全身を舐め、ときどき唇を吸った。

ミカは両腕を後ろ手に縛られ、大きく脚を広げたあられもない姿でマスターの激しい愛撫を受け入れていた。

「さあ、奥さんの大事なところを見せてもらおうかな」

ショーツの細くなっている横の部分に手が掛かった。

膝が合わせられる。

ミカは自然に腰を上げてしまったから、マスターはすんなりとショーツを剥ぎ取った。

もう何も、身に着けているものはない。

「脚を開いて…よく見せて…」

「い、いやっ…」

脚を開かせまいと精一杯力を入ようとするのだが、両手を縛られていることもあって到底マスターの力にはかなわない。

「襞が開いて…きれいなピンク色が見えてる…濡れて光ってるよ…」

「ああ…お願い…見ないで…」

健介にも、まじまじとなど見られたことのない恥ずかしい部分が、マスターのぎらぎらとした眼の前に晒されている。

そう思っただけで、太腿の内側がビクッと震える。

その太腿の柔肌に手を当て、マスターが顔を近づけて来る。

「あっ…だめっ…!」

秘所にキスをされる。

「いや…あ…あ…」

割れ目に沿って、舌が柔襞をかき分ける。

溢れ出る蜜をすする。

「ああっ…!」

濡れて光る小さな芽が、唇に挟まれた。

ミカは飛び跳ねるように反応し、大きな声を上げてしまっていた。

「奥さん、感じるだろう」

舌で刺激しているマスターの声は、まるで遠くから聞こえるようだ。

「ああっ…すごい…」

「欲しくなってきたろ」

「…こ…こんなの…ど…どうして…」

「クックックッ…ワインの中にね、媚薬が入ってたんだよ、奥さん」

「ビヤク…?」

「そう。

エッチな気分になる薬だよ。

こんな時間に奥さんみたいに若くてきれいな女性が一人で来るなんて、絶好の獲物じゃないか」

マスターのその言葉はミカにとって大きな衝撃だった。

「そんな…」

親切そうなマスターの言葉は初めからすべてミカをこうして辱めるための演技だったのだ。

(ひどいわ…) 立ち上がったときによろけたのもワインのせいではなかった。

そして体のあまりに敏感な反応も …。

きっとこんな風にして女性の一人客を犯すことがあるのに違いない。

(ああ…犯されてしまう…) そう思った時、言いようない倒錯した快感が襲ってきて、腰の辺りが痙攣した。

ミカの女の部分はマスターに貫かれるのを待っているかのように熱く濡れ、太腿は細かく震えていた。

マスターが立ち上がった。

ミカの顔の前で、ズボンのジッパーを下ろし、中から黒々とした肉の棒を引きずり出す。

それはすでに力を漲らせて、硬く膨張していた。

先の部分のサーモンピンクが異様に思えた。

「旦那さんのは舐めてやるんだろう?」

「えっ…」

マスターの手でポニーテールにした後ろ髪が乱暴に掴まれた。

目の前に黒々とした性器が迫る。

髪を掴まれているから顔を背けることができない。

「う…!」

それが唇に押し当てられた。

「舐めるんだ」

「いや…」

「旦那のは舐めるんだろう?」

もう一度、今度は少し乱暴に訊かれて、否定することができなかった。

健介は口で愛されるのが好きだった。

ミカも健介自身を口に含み、それが口の中で大きく硬くなっていくのを嬉しく思う。

「舌を出すんだ」

マスターはミカの沈黙を肯定と受け取って、髪を掴んだ手に力を加える。